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希望の狩人と絶望の宝石 【シカテマSS R15】

時系列、
シカマル秘伝のあと。木ノ葉デートのお話です。
イチャイチャしていないし。淡々と。自然な感じにさらーっと。
流れるように時間が過ぎていく・・・と見せかけて・・・。

青春してんだか、夫婦感がこぼれちゃってんだか、微妙な二人ですが。
のんびりさらーっと読んでいただければ嬉しいです ・∀・

本文は下部の、「 >>続きを読む .。.:*・゜ 」から ↓


【 希望の狩人と絶望の宝石 】

山中花店、山中いのの実家である。中を覗くと、いのが店番をしていた。
「よお。久しぶりだな、いのが店番してるっつーのも」
「いらっしゃーい。ふふふ、たまにはねー」
長い髪を揺らすように首をかたむけ、ふんわり女性らしくほほ笑んだ。
「で、最近どう?忙しそうだけど。あ、お茶でもいれよっか」
山中一族のいのとは付き合いが長く濃い。同じ班の仲間であったし、
家族ぐるみでも深くつながっていて、まるで親戚同士のような関係だった。
(っつーか、まるで親戚のおばちゃんみてーになってきたな・・・)
「いや、今日はそーじゃねーんだ」
たまたま店頭にいのがいたから話しかけたわけではない。
「え。じゃあなに、アンタが花?花束?シカマルがあ??」
「あー・・・いや、鉢植えを」
「もしお見舞いだったら花束よ?鉢植えは根付くって縁起が悪いからダメよ?」
「鉢植えでダイジョウブだ」
「・・・そう・・・で、観賞用?それともお料理に使える類とか、」
「あー・・・ああ」
「あと、そうね、うちにあるのは少ないけど、薬草として使えるのとか」
「それだ」
(・・・こいつ、いま決めたな)
まったく花に縁のないような人が花屋に訪れ、店先であーこう悩む姿を眺める事には慣れっこである。
でもそれがこの、この、この、シカマルかと思うと、いのはニヤニヤせずにはいられない。
「そうね~。で?どこの気候にあった薬草の鉢植えを選べばいいのかしら~?」
「砂だ」
「へえ~。私なにも聞いてないな~、私も医療班なんだけどな~」
「・・・・・・」
「ちゃんと依頼してくれればもっとしっかり用意できたのにな~、って言うか、
 そこそこの薬草ならアンタんとこの森で取れるんじゃな~い??」
ニヤニヤニヤニヤニヤ。
(・・・あ、めんどくせーって顔になった。ちょっと言い過ぎたかな~、ふふふ)
と言いつつ、思いつつ、それでもいのはレジカウンターから出てきて鉢植えを物色していたので、
シカマルはなにも言わなかった。
そして小さな鉢植えを手に取ると、シカマルに差し出して見せた。
「うん。コレ!コレがイイわね!」
菊の仲間だろうか、一重ではあるが、細い薄紫色の花びらは多弁。真ん中の筒状花は黄色。
「茎に効能があって、咳止めや利尿作用があるわ。比較的丈夫だから砂隠れでも大丈夫だと思う。
 本当はアンタより大きくなる花だけど、これは改良してあるから大きくはならないわ」
「へえ・・・で、コレがいいのか?」
「そ。もうコレじゃなきゃダメ!ってくらいにねッ」
シカマルはよくわかんねーけど・・・みたいな表情をしていたが、
「ま、いのが言うんだったら間違いないな」
「うん!まいどありーっ」
そうして小さな鉢植えをビニル袋でさげ、シカマルは奈良家へと帰って行った。
(・・・あ、花の名前きくの忘れたな・・・ま、いっか)


翌日。木ノ葉の里の入り口、大門前にシカマルは立っていた。
門番のイズモとコテツは、
(・・・お。今日の出迎えはシカマルか・・・久しぶりだな)
(ってことは、砂の来里予定1名ってのはあの子か・・・?)
(上忍になってもまだ案内役やってんのかよ・・・)
(てかあの子に敵う忍なんて暗部以上だろ?護衛とか要らないだろ)
(とは言っても、砂の姫さんだからな~)
(現風影の実姉だしな~)
(何かあったら大問題だよな~)
(やっぱシカマルか~)
(オレたちじゃ、ないよな~・・・)
後進の躍進を認めつつ、自分達の地味さに侘しさをかみ締めていた。

やがて遠目に、凛とした、様子の良い女性の姿が見え始めた。
(きたきた)
(はい、砂のテマリ姫。チェックOK、同行有り、奈良シカマル)
(・・・あれ?)
(んー?)
(アイツ、いつもダルそ~に突っ立って待ってなかったか?)
(あー、そうそう、ンな態度でいいのか?っていう感じにな)
(何度か注意したよな)
(したした)
(だろ?・・・初めてじゃないか?・・・走って、迎えに行くなんて)
(・・・急ぎの用事でもあるんじゃないか?)
(だ、だよな~・・・)
(ああ、まさか、だろ。相手は・・・・だろ?)
(な~。そこんとこはいくらシカマルでも、だよな~)
(高嶺の花ってやつだよな~)
そしてやはりその隣にいられる自分達ではないと悟り、二人は遠い空を仰いだ。


タッタッと小走りでたどり着くと、テマリは小さくニッと笑ってくれた。
「お出迎えごくろうさん。待たせたか?」
「いや、計算通りだ。雨隠れからのルート、途中の茶屋で団子2串ってとこだろ」
「はずれだ」
「えっ」
「今朝は栗あんみつの気分だった」
「つーかよく朝っぱらからンな甘いモン・・・」
「やはり雨の中は歩くだけで疲れる。きっとそのせいだ」
テマリは両腕を上げ、んーっと身体を伸ばした。そして続ける、
「やはり木ノ葉は気候がよいな。風が気持ちいい」
「そりゃどーも」
「おかげで服も乾いたし、」
腕をおろした勢いで自分の腿をパサッと叩き、
「あとは、この扇子をおろすだけだ」
そう言いおもむろに隣を歩くシカマルを見上げると、テマリはニシシっと笑った。

背中にくくっている巨大な扇子は、テマリの一番の武器である。
誰一人護衛をつけず、女一人で国々を移動できるのもこの武器あってのことだ。
以前は同盟国の隠れ里、木ノ葉においても里内を歩く時には常に背負っていたが、
しかし最近は、火影屋敷内に間取りされた、連合執務室に置きっ放しにする事が増えていた。
それだけ同盟国間の隔たりは薄れてきた、ということだろう・・・いいことだ、
いずれはきっと、道中も武器などいらなくなる。
(それが、連合の目標だ・・・)
「んん?どうかした?」
せっかくの笑みが消えてしまった。
「あーその、なんだ、今日は任務外だから連合部屋は開けられねーから、
 うちでいいか?門番のとこよりは安全だと思うし」
「んん?迷惑ではないか?一応他里の兵器ということになるぞ?」
「ンな心配はしてねーよ」
その言葉を受け、テマリは、んっと小さく笑った。
今日はよく笑うな・・・シカマルはふとそう思っていた。

日頃歩かない道なせいか、テマリはきょろきょろしながら歩いていた。
出会った頃はシカマルより背が高かったが、
次第に追い付き、追い越し、今ではテマリを小さくさえ思う。
(げっ歯類みてーだな)
見た目は小さく可愛い。だが咬まれると痛い。
また、今日は丈の長い着物ではなく程好く短いスカートだったので、
余計に身軽な小動物を連想させたのかも知れない。あとは、
「痩せたか?」
「ハア!?女性に体重の話とかするか!?」
睨まれてしまった。怖ェ。
「いや、痩せたってのは女にとっちゃ褒め言葉なんじゃねーか?っつーか、女は気にしすぎなんだよ」
「また女、女って。お前ももういい年なんだから、女性とか女の子って言いな」
「・・・ゲ」
「お・ん・な・の・こッ」
「・・・・・・」
「またそんな顔をする・・・」
(・・・んん?顔?)
「あ・・・ここか?奈良と書いてある」
門前に到着してしまった。

玄関の中にテマリを招き入れ、そこで背中の扇子、他里の兵器をおろさせた。
(一応言っとくか)
「母さーん、ちょっといいかー?」
すぐに母親は現れた。そして目を丸くした。
あえて取り合わず、先ずはテマリに母親を紹介する。そして、次に、
「砂隠れのテマリ上忍。よく連合の仕事で一緒になる」
「はじめまして。奈良上忍にはかねてよりお世話になっております」
「いえこちらこそ。こんな不肖な息子がお世話にになりまして・・・って、
 シカマル!アンタその紹介じゃ足りないでしょ!」
・・・客の前で怒られてしまった。
「きちんと四代目風影様のお嬢さんって言わなきゃ駄目でしょ!失礼でしょ!」
「いや、知ってるだろ・・・」
「またそーいう顔して!」
(んん?)
「あ、ごめんなさいね、上がって頂戴、すぐお茶を、」
「いやいい、俺らまたすぐ行くから」
「あら・・・そう」
「ただこの人の忍具を置いて行くから、一応言っておこうと思って」
「・・・了解。守っておくわ」
「ご面倒をお掛けします」
テマリは深く頭を下げた。母親は、
「お気になさらず」
そう言って砂の姫にほほ笑んだ。
「じゃ、結界式のレベルを一段上げようかしら。・・・シカマル、手伝いなさい」
「・・・はいよ。テマリ、すぐ済むから待っててくれ。
玄関を出て右側から庭に入れるから、その縁側にでも座っててくれ」
「うん、了解した」
もう一度母親に礼をし、テマリは出て行った。
(・・・さ、くるぞ)
「シカマルっ!」
(・・・ほらきた・・・)
「連れてくるなら先に言っておきなさい!」
「ハイハイ、悪かったよ」
「ハイは一回!」
(あー、もー・・・ったく)
「またそんな顔・・・」
「ハア?」
「ところでシカマル、あの子と交際してるの?」
「そんなんじゃねーよ」
「ほんとに?」
「ああ、なんでもねーよ」
「そうよね・・・めんどくさがりのアンタには、荷が勝つわよね。・・・ハア」
「余計なお世話だ。ンな事でいちいちため息なんかつくな」
「またそんな・・・」
母親が急に目を細め視線を反らす。
「なんだよ」
すぐにまた顔を上げると、
「どんどん父親に似てくるわね。シカマルのくせに生意気だわ」
「なんだ、そりゃ」
するとふわり、
「いい男になってきた、ってことよ!」
そう言って、鮮やかに笑った。

手伝いは不要。そんな事判りきっていた。
シカマルが庭に回ると、テマリは言われた通り、
縁側に座っていた。膝の上には鉢植えを乗せているが、それを眺めるでなく、
視線は空、小石を散りばめたように広がる巻積雲を見上げていた。
シカマルに気が付いたテマリは反らしていた首を戻すと、やはりまた、ほほ笑みを見せた。
「きれいな花だな、つい手に取ってしまった」
「・・・ああ」
「私はこの色が好きだ」
(・・・ああ、知っている)、・・・知っていた。
「なんていう名前の花なんだ?」
・・・それは知らなかった。


度々の戦乱を経て、里の中も様変わりしていった。
砂の外交を務めるテマリは幾度となく木ノ葉にも訪れているが、散歩の機会は少ない。
日頃通らない道を選び歩き、シカマルさえ発見を楽しめる時間を過ごした。
夢中になっていたのかも知れない。すぐそばを擦れ違った、よく見知った仲間にさえ気が付かなかった。
(・・・ちょ・・・っ、なによ今の雰囲気・・・!?)
通り過ぎ、いのは振り返る。笑い合う二人の横顔が見て取れる。
(アイツ非番でしょー?あのお花、てっきり砂に出向く部下に持たせるのかと思ってたわ。
 まさかテマリさん本人が来てるなんて・・・って言うか、え?なんかおかしくない・・・?)
テマリが来ているのにシカマルが非番な事が解せない・・・なのに一緒にいるのも腑に落ちない・・・
(・・・ま、)
二人はどんどん遠ざかってゆく。黒ばっかりの野暮ったい男の横、
陽にとけ揺れる金色の髪、淡い薄紫の上衣。
(私のチョイスは完璧だった!ってことね。さっすが私!)
きっと、声を掛けなかったのも正解だったわね、と思い満足し、いのは自分の道を進んだ。


そもそもの約束は昼食を共にするというものだった。
店は決めていた。何年も前から決まっていた。
暗黙の了解で、互いに確認する事なく向かいたどり着いた。
畳敷きの個室に案内されると、テマリは下座へ座った。
ふとシカマルの脳裏に思い起こされる場面、
(何処に嫁がされるかわからないからな、一通りの作法は叩き込まれている)
(・・・めんどくせーな)
(生まれた時からそう育てられている。私には当たり前の事でしかない)
(そっか・・・)
無表情でそんな事を話していたな・・・そう思いながら、シカマルは上座に腰を下ろした。
二度目の訪店となるが、前回は上座には六代目火影が座っていた。
連合の主だった面子で訪れ、だが任務途中の昼時の事、時間的制約で〆の甘味まで辿りつかなかったのだ。
(懐石なのにお茶と甘味が楽しめないなんて・・・)
眉間にしわを寄せ呟くテマリを見かねて、
(包んでもらったらどーっスか?)、なんて無意識に言っていたのを思い出す。
(いや、いい・・・また来る)
それから幾度か、連合で食事会をというたびに候補にはあがりはしたが、
なんせ時間の掛かる提供スタイルにくわえ、ヤロー好みのタイプではないので都度却下となっていた。
「チョウジなんかとじゃぜってー無理な店だな。配膳方法も、量的にも」
「ああ。アイツはいつも焼き肉屋のイメージだな」
くすくすと笑う。
「ゆっくり喰うからそれなりに満腹感を得られるはずなのに、やっぱこう、」
シカマルは丼を持ち箸でかっ込む素振りをして見せ、
「ダイナミックに食べられる方がいいんだろうな」
そう分析すると、テマリもうんっと頷いた。
「男はちまちま食べるのが苦手とよく聞くからな。女子はその逆らしいが」
「だが女とこんな店に来たら間が持たねーよ。ずっとしゃべらてもめんどくせーし」
「・・・女性。女の子」
「男性、男子、お・と・こ・の・こ」
テマリは露骨に顔を歪ませた。
「俺以上にアンタの方がいい年なんスから」
「女の子に年の話も失礼だ。ったく・・・」
先附けに箸を伸ばしながらうんざりした表情を見せたが、一口食べると、にっと笑った。
「うん。やはりこの店は美味しい。ここから先も楽しみだ」
「甘味に辿りつくのは1時間後、ってとこっスかね」
「間が持つかな?・・・年下の男の子くん」
いたずらな上目使い、挑発的な素振り。
「だらだら喰うのは慣れてるんスよ。チョウジと肉喰ってると、同じペースじゃ喰えねースから」
「あは、たしかにな」
今日は本当によく笑う。色んな表情をする。
(・・・母ちゃんもキツくて怖ェ女だけど、オヤジの前では違かったんかなー・・・)
肉を豪快に食べるチョウジを見ていて気持ちがいいと思っていた。・・・でも、
こんなのも悪くないな・・・、と、女性との食事の席で、初めてそう思った。

ようやくたどり着いた甘味を前に、
「食べてしまうのが惜しいな」
テマリがそんな事を言い出した。
思いきりがよく大胆で、かつ好戦的なくのいち。
その行動はつねにためらいがない。それが砂のテマリ。なのに、
目の前に置かれた甘味と茶に手を付けないでいること、6分。
「うまかった、ごちそうさま」
シカマルはすべてたいらげ、座布団の上、足を崩した。
「いいぞ、吸って」
「いーよ、お前まだ食事中だろ」
気遣いを気遣いで返す。
その言葉を受け懐紙に手を伸ばすから、それさえも制した。
「だからって急ぐ必要もねーからな」
「うん」
「あー、だがちっと寝転んでいいか?久々に長時間正座してたから、背中が疲れた」
「どうぞ」
そっと小さな笑顔を浮かべてくれたが、
二つ折りにした座布団に頭を置くと、卓の向こうにあるはずの笑顔は見えなくなってしまった。
なんとなく、失敗した気分になった。
(・・・んん?)
卓の下に何とはなく目をやると、テマリの足もとが見えた。
(・・・この人もずっと正座してたな・・・文化が違うってのに、箸もきれいに使いやがる。・・・・・・ハァ)
不意にこぼれたのはため息か?いや、深呼吸だ。
(風の国は体質が古い・・・里では我愛羅に集う者達が新しい時代を構築しようとしているが、
それは外殻であって、根幹はなかなか変えがたい・・・それに、俺達の過去も変わりはしない・・・)
未来は変えられる。造り上げる事ができる。
だが、俺らはもう・・・
「犠牲、とは言いたくねーが、もう、自分のためだけに生きる時間なんて、とっくに終わってんだよな」
「・・・なんだ突然、泣き言か?」
呆れたような声。でも笑みが乗せられた響き。
「お前の言う通り、私らはとっくに導く側で、しかも見据えているのは巨大な平和だ。
 残念ながら個々よりも絶対多数が優先される」
「・・・ああ、判ってる」
柔らかい声色とは対照に、テマリの両手は膝の上で握られていた。ずっと、ぎゅっと握りしめられていた。
「っつーか、やっと踏ん切りがついたってとこなんだけどな」
「ずいぶん時間が掛かったものだな」
声が笑っている。
「ま、そもそもお前はめんどくせーとばかり言っている、やる気のないアホ面のガキだったからな」
「的確すぎて言い返せねーぜ・・・」
「そのガキもずいぶんと大きくなったもんだ」
「図体ばかり、か・・・?」
「ひねくれるな」
くすっと笑う。手をいっそうぎゅっと握りしめる。
「しゃんとしろ。お前はもう、五影さえも動かせるオトコになったんだろ?」
「・・・なんかそれ、壮大過ぎて実感の欠片もわかねーな。ったく、めんどくせ・・・」
「つくづくだな、お前は・・・踏ん切りがついたって言わなかったか?」
「言った」
「だったら何をぐだぐだ言いだしてんだ?」
「・・・んー、」
「怒らないから言ってみろ」
「ゼッテーか?」
「ああ。ぶん殴るかも知れないけどな」
「怒らず殴んのか、てめーは」
「喝だ、喝」
「言葉で言ってくれ」
「これがお前から見た私らしさだと思ったんだが」
「だったら本当のお前ってどこにいんだよ」
きゅっと一瞬スカートさえも握ったかと思ったら、すぐに手は視野から消えた。
「甘い物を食べている時のワタシは、ホンモノだ」
「・・・うまいな、その・・・なんだ?」
「ういろう?それとも栗きんとんのほう?」
「もちもちしたほう」
「そうか、この絞りきんとんは粉々しているからな」
「そーいうこと。お茶、冷めちまったろ、淹れてもらうか?」
「ううん。寝ていてくれた都合が良い。食べきるのにもう少し時間が欲しい」
起き上がろうとしたのを制された。身体を戻しまた、ぴっちり揃えられた小さな膝頭を見た。
〆のデザートに辿りついてから、もうどのくらい経っただろう・・・そこまでは、
お互いさほど変わらぬペースで食べ進めてきた。しゃべりながら。笑いながら。
なのに今は、のんびりだ・・・
(足くらい、崩せばいいのにな・・・)
自分は寝転がっている。どんだけ気ィ抜いてんだ・・・そうだ、さっきの話、
「・・・テマリ、」
「なんだ・・・?」
「聞いてくれ。怒ってもいいから」
「ええ?」
声が笑っている。笑いながら、まあ言ってみろ、なんて。相変わらず偉そうな女だ・・・
でも、だから・・・言えるんだ、
「ありがとう」
「は?黙の一件ならしつこいぞ?」
しつこいとか言うかよ・・・
「ちげーよ。今日。っつーかイマ」
「いいぞ。会計を持つぐらい年長者のたしなみだ」
「俺が出すっ」
「だったらなんなんだ」
なんか声が怖くなってきた・・・あの時を思い出す。その黙の一件の、別れ際。
あの時もそうだった、礼を言うだけですげー睨まれた・・・でも今見えるのは、小さな二つの膝頭。
「・・・甘えさせてもらった」
「うん・・・?」
「愚痴みてーな、駄々こねるみてーなこと言った」
「うん・・・」
「だがおかげでいい息抜きができた。これでまたとうぶんは、気負わずやっていける」
「・・・そうか」
「ああ・・・」
不意に、ぺたんと、足が崩された。膝下が両側にするんとずらされて、腰が落ちた。
眺めていると、すっと両手が現れ、畳につく。そして・・・覗き込まれた。卓下、向こう側にキッと睨む翠色の瞳をみた。
「だがシカマル、」
「は・・・はい」
「そーいうのは、ここだけにしておけよ。他の奴らにそんな姿を見せるな、足元を掬われるぞ」
「・・・ンなこたァ、重々承知だよ」
「よし」
そしてテマリは満足そうに笑った。
(めんどくせー)
黙での別れしな、今日へつながるあの時の笑顔とそれは同じだった。


扇子を取りに戻った時に、まるでついでのように鉢植えを差し出した。
「いや、砂は気候が厳しい。枯らしてしまってはかわいそうだ」
申し訳なさそうな表情をする。
「花は木ノ葉のほうが健やかに育つだろ?」
「・・・いや、えーっと、」
「んん?」
「その・・・いの、知ってるよな?」
「うん、最近は医療忍者としてよく砂を訪れてくれている」
「ああ・・・で、実家が花屋だから、選んでもらったんだ。砂に送るのに都合のイイのをって・・・でもたぶん、
 いのの事だから・・・お前に贈るのに丁度イイのを選んだんだと思うんだ」
「・・・そうか・・・では、ありがたく持ち帰らせていただくよ」
「・・・おう」
「で、名前を聞くのは忘れたってわけか」
「今度聞いておきます・・・」
「いや、いい。育て方も知りたいから自分で調べてみる。・・・キク科、だろうな」
「おそらく。あと・・・根が生薬になる。咳止めだったかな」
「情報としては充分だ」
「育てるのが困難になったら薬草研究施設にでも回してくれ」
「なんだその予防線は」
「そーいうとこに突っ込むなッ」
柄にもなく照れくさくなり、シカマルは先に歩き始めた。
けれど付いてくる恰好のテマリの歩はいつになくゆっくりで、
「疲れたか・・・?」
立ち止まり、並ぶのを待った。ううん、首は横に振られた。
「ただの我がままだ」
並び、そして一緒に歩き出す。
「この程度で我がままだなんて、お前どんだけ自分を律してんだよ」
「ハハ・・・なにせあんな二人の姉さんだからな」
「なあ、俺よくよく振り返ってみると、あの二人とあんま接点ないぜ?
 っつーか、ほとんど砂にも行ってねエ」
「・・・たしかに」
「悪イな、連合の会合も、いつも砂は開催候補里にすら挙げられなくて」
「・・・しょうがないよ、気候はともかくとして、未だに治安が良いとは言えないから」
「動きがあるのか?」
「さあ・・・最近カヤの外気味なのよ。お前に言うとうるせーじゃんって・・・」
「カンクロウか。ま、あいつは側近、アンタは外交だからな」
「私だって我愛羅のことは心配なのに。でしゃばるな・・・じゃん・・・って・・・」
「いやそれ、じゃんの使い方テキトーすぎるじゃん」
「むう~・・・」
口元を膨らませた。珍しい顔だ。
「連合の介入が必要になったらすぐに言えよ?」
「あー、ダイジョウブ。まだ。たぶんだが。今のこれは仕事の話ではない、家族への愚痴だ」
そうか、家族の話をする時は、あんな顔をするんだ・・・
「ま、何かあったら・・・助けてやる。そん時は言いな、お姉さん」
これにはすっっげェェェェ~イヤな顔をされた。それほどかよ・・・
「泣き虫くんの駄々っ子のくせに・・・」
「うるせー、連合の頭脳をなめんな」
「言うじゃん」
「じゃんはやめろ」
「その時が来たら正式に要請する。・・・助けてくれ」
「承知した」
「私は・・・」
「んん?」
「私は今、忍界最強の兵器を手に入れたのか・・・?」
「いや、そりゃアンタだろ」
「んん?」
「俺ァ、最恐のくのいちには敵わねーからな」
「・・・キョウの字」
「バレたか」
「制裁!」
グホっ・・・わき腹に肘撃ちを喰らった。
「ま、ノリで言ってしまったが・・・お前を褒めるような事を言ってしまったが、
 やはり、誰もが敵わないのはナルトなんだろうな」
「だろうな」
「救世主様か・・・」
「いずれは七代目火影様だ」
「お前は補佐役か・・・じゃん」
「そうか、カンクロウと同じ役職か・・・」
「あはは」
どうでもいい話と、時々自然に織り交ざる仕事の話。
流れるように会話して、笑って、そうして里の大門へと到着してしまった。
(えーっと・・・)
「今日はありがとう、楽しい一日をすごした」
(先に言われちまった・・・)
「いや、こちらこそ」
シカマルは手を首の後ろに当てる、いつもの仕草をする。自然、背筋が丸くなる。
「ほら、シャキっとしろ。でかい図体してそれでは、恰好がつかないぞ」
テマリの翠色の目にぎゅっとチカラがこもっている。それ怖ェって・・・
「ではまた、どこかでな」
そう言って、テマリはくるりときびすを返した。
「・・・ああ。気をつけて帰れよ」
もう何も答えてくれなかった。
巨大な扇子の背中を、小さな鉢植えの入った袋を持つ後姿を、
シカマルは見えなくなるまで見送っていた。
(なんで最後の最後であんな、可愛げねェ態度すんのかねェ・・・)
夢なんて、見てる場合じゃァねェけどさ・・・不意にそう思い、
「・・・んん?」
シカマルは首を傾げた。

                              おしまい。


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